ふるさと納税は、自分が応援したい自治体に寄付をすることで、寄付金のうち2,000円を超える部分について所得税と住民税から控除される制度です。しかし、この控除には上限があり、これを「控除上限額」または「限度額」と呼びます。この限度額を超えて寄付をすると、超えた分は控除の対象外となり、自己負担となってしまうため、ご自身の限度額を正確に把握することが非常に重要です。
ここでは、ふるさと納税の限度額がどのように計算されるのか、その仕組みと具体的な計算方法について、詳細かつ多角的に解説していきます。

ふるさと納税の限度額計算方法
1. ふるさと納税の控除の仕組みと限度額の重要性
まず、ふるさと納税の控除の仕組みを簡単に理解しておきましょう。ふるさと納税による税額控除は、以下の3つのステップで行われます。
- 所得税からの控除: 寄付金のうち2,000円を超える部分が所得から控除され、所得税が軽減されます。
- 住民税からの控除(基本分): 寄付金のうち2,000円を超える部分が住民税から控除されます。
- 住民税からの控除(特例分): 上記の控除で控除しきれなかった分が、住民税の特例控除として控除されます。この特例控除には、住民税所得割額の20%という上限が設けられており、この20%が実質的なふるさと納税の「限度額」を決定する大きな要因となります。
この特例分の上限があるため、自身の所得や家族構成によって控除される金額に上限が設けられるのです。この限度額を超えて寄付をすると、その超過分は控除対象とならず、単なる寄付となってしまいます。お得にふるさと納税を利用するためには、この限度額を正確に把握し、その範囲内で寄付を行うことが鉄則です。
2. ふるさと納税の限度額を左右する主な要素
ふるさと納税の限度額は、主に以下の要素によって変動します。
- 所得(住民税所得割額): 最も大きな影響を与える要素です。所得が高いほど、住民税の所得割額も高くなるため、ふるさと納税の限度額も大きくなります。
- 家族構成(扶養親族の有無): 配偶者控除や扶養控除など、各種控除の適用状況によって所得税や住民税の金額が変わるため、限度額も変動します。特に、扶養親族が多いほど控除額が大きくなり、結果として住民税所得割額が少なくなるため、限度額は低くなる傾向があります。
- 社会保険料控除: 支払った社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)の金額は所得控除の対象となるため、社会保険料が多いほど課税所得が減り、住民税所得割額が少なくなるため、限度額は低くなります。
- 生命保険料控除、医療費控除、iDeCo(個人型確定拠出年金): これらも所得控除の対象となるため、これらの控除が多いほど課税所得が減り、限度額は低くなります。
これらの要素が複雑に絡み合って限度額が決定されるため、ご自身の状況に合わせた正確な計算が必要です。
3. 限度額計算の基本的な考え方(簡易計算式)
ふるさと納税の限度額は、厳密な計算式が存在しますが、まずは大まかな目安を知るための簡易計算式から見ていきましょう。
簡易計算式:
おおよその目安として、以下の計算式が用いられることがあります。
ふるさと納税 限度額 = (住民税所得割額 × 20%) ÷ (90% - 所得税率 × 1.021) + 2,000円
この式は、ふるさと納税の控除の仕組み(住民税の特例控除が住民税所得割額の20%を上限とすること、および所得税からの控除分)を簡略化したものです。
- 住民税所得割額: こちらは給与明細や住民税決定通知書に記載されています。
- 所得税率: ご自身の課税所得によって適用される所得税率が変わります。
- 1.021: 所得税の復興特別所得税率(2.1%)を加味した係数です。
この簡易計算式でもおおよその目安はわかりますが、各種所得控除や税額控除が考慮されていないため、あくまで「目安」であることを理解しておく必要があります。
4. 正確な限度額計算のための詳細なステップ
より正確な限度額を計算するには、以下のステップを踏む必要があります。
ステップ1:課税所得の算出
まず、所得税や住民税を計算する上で基本となる「課税所得」を算出します。
課税所得 = 所得金額 - 所得控除額
- 所得金額: 給与所得者の場合は、源泉徴収票に記載されている「給与所得控除後の金額」がこれにあたります。自営業者の場合は、総収入から必要経費を差し引いた金額です。
- 所得控除額: 基礎控除、社会保険料控除、生命保険料控除、医療費控除、扶養控除、配偶者控除、iDeCoの掛金など、所得から差し引かれる各種控除の合計額です。
ステップ2:所得税額の算出
算出した課税所得に、所得税率を掛けて所得税額を算出します。
所得税額 = 課税所得 × 所得税率 - 税額控除
- 所得税率: 課税所得によって段階的に税率が上がります。国税庁のウェブサイトなどで確認できます。
- 税額控除: 住宅ローン控除や配当控除など、税額から直接差し引かれる控除です。これらは所得控除とは異なります。
ステップ3:住民税所得割額の算出
次に、住民税所得割額を算出します。住民税は一律10%(都道府県民税4%、市町村民税6%)ですが、所得税と同様に所得控除が適用されます。
住民税所得割額 = (課税所得 - 調整控除) × 10% - 税額控除
- 調整控除: 所得税と住民税で所得控除の控除額に差がある場合に発生する控除です。一般的には数千円程度の金額です。
- 税額控除: 寄付金控除(ふるさと納税以外のもの)、住宅ローン控除など、住民税から直接差し引かれる控除です。
ステップ4:ふるさと納税の控除上限額(限度額)の算出
いよいよ、ふるさと納税の控除上限額を算出します。以下の複雑な計算式を用います。
ふるさと納税の控除上限額 = {(住民税所得割額の20%) ÷ (90% - (所得税率 × 1.021))} + 2,000円
この計算式は、前述の簡易計算式と同じように見えますが、ここでの「住民税所得割額」は、ステップ3で算出した正確な金額です。また、「所得税率」もご自身の課税所得に基づいた正確な税率を使用します。
【計算式の各要素の詳細】
- 住民税所得割額の20%: ふるさと納税の住民税特例控除の上限です。これが実質的な控除限度額を決定する重要な部分です。
- 90%: 住民税の基本控除(都道府県民税2%、市町村民税8%)の合計が10%なので、残りの90%が特例控除の計算に使われる部分です。
- 所得税率: ご自身の課税所得に応じた所得税率です。
- 例:課税所得195万円以下:5%
- 課税所得195万円超330万円以下:10%
- 課税所得330万円超695万円以下:20%
- 課税所得695万円超900万円以下:23%
- 課税所得900万円超1800万円以下:33%
- 課税所得1800万円超4000万円以下:40%
- 課税所得4000万円超:45%
- 1.021: 復興特別所得税率(2.1%)を加味した係数です。所得税から控除される金額は、所得税額の計算に使われた所得税率に復興特別所得税率を乗じたものが対象となるため、この係数が必要になります。
- 2,000円: 自己負担額です。

5. 具体的な計算例(独身・共働きの場合)
例:年収500万円の独身会社員の場合
前提条件:
- 給与収入:500万円
- 社会保険料控除:70万円
- 生命保険料控除:4万円(新制度)
- 基礎控除:48万円(所得税・住民税共通)
計算ステップ:
- 給与所得控除後の金額(所得金額)の算出 年収500万円の場合、給与所得控除額は「年収×20%+44万円」で計算されるため、 500万円 × 20% + 44万円 = 100万円 + 44万円 = 144万円 給与所得控除後の金額 = 500万円 – 144万円 = 356万円
- 所得控除額の合計 社会保険料控除:70万円 生命保険料控除:4万円 基礎控除:48万円 合計所得控除額 = 70万円 + 4万円 + 48万円 = 122万円
- 課税所得の算出 課税所得 = 356万円 – 122万円 = 234万円
- 所得税額の算出 課税所得234万円の場合、所得税率は10%(所得税額 = 課税所得 × 10% – 9.75万円) 所得税額 = 234万円 × 10% – 9.75万円 = 23.4万円 – 9.75万円 = 13.65万円 (復興特別所得税込みの所得税率:10% × 1.021 = 10.21%)
- 住民税所得割額の算出 住民税の課税所得 = 234万円 調整控除(住民税と所得税の基礎控除額の差額などから発生、ここでは仮に5,000円とします) 住民税所得割額 = (234万円 – 5,000円) × 10% = 233.5万円 × 10% = 233,500円
- ふるさと納税の控除上限額の算出 {(住民税所得割額の20%) ÷ (90% - (所得税率 × 1.021))} + 2,000円 = {(233,500円 × 20%) ÷ (90% - (10% × 1.021))} + 2,000円 = {46,700円 ÷ (90% - 10.21%)} + 2,000円 = {46,700円 ÷ 79.79%} + 2,000円 = 58,528円 + 2,000円 = 約60,528円
この計算例はあくまで一例であり、個々の状況によって大きく変動します。
6. 計算をさらに複雑にする要素
上記で解説した以外にも、限度額の計算を複雑にする要素があります。
- 住宅ローン控除: 住宅ローン控除を受けている場合、所得税から直接税額控除されるため、所得税額が減少し、結果としてふるさと納税の控除上限額も影響を受ける可能性があります。特に、所得税から控除しきれない住宅ローン控除額が住民税から控除されている場合、住民税所得割額が減少するため、ふるさと納税の限度額が低くなる傾向があります。
- iDeCo(個人型確定拠出年金): iDeCoの掛金は全額所得控除の対象となるため、掛金を多く拠出していると課税所得が減少し、ふるさと納税の限度額が低くなります。
- 医療費控除: 年間の医療費が一定額を超えた場合に適用される所得控除です。医療費控除を受けると課税所得が減少し、限度額に影響します。
- 災害による損失控除など、その他の所得控除や税額控除: これらの控除も同様に、課税所得や税額に影響を与え、結果としてふるさと納税の限度額を変動させます。
7. 限度額計算の注意点とおすすめの確認方法
注意点:
- 年収は「見込み」ではなく「確定」で考える: ふるさと納税の限度額は、その年の所得に基づいて計算されます。そのため、年末に近づくにつれて正確な年収が固まってくるので、できるだけ確定した年収で計算することが重要です。特に、残業代やボーナスなど、年収が変動する可能性がある場合は注意が必要です。
- 控除額も「見込み」ではなく「確定」で考える: 社会保険料や生命保険料、医療費なども、年間の支払額が確定してから計算に含めるのが最も確実です。
- 共働き夫婦の扱い: 共働き夫婦の場合、それぞれが独立して限度額を計算する必要があります。どちらか一方の所得が高い方が限度額も高くなる傾向があるため、所得の高い方が多く寄付をする方が効率的です。
- ワンストップ特例制度の利用: 確定申告が不要な会社員など、一定の条件を満たす場合は「ワンストップ特例制度」を利用できます。この制度を利用すると、ふるさと納税の控除が全額住民税から行われるため、所得税からの控除分を考慮する必要がありません。ただし、この制度を利用する場合でも、限度額の計算方法は基本的に同じです。
おすすめの確認方法:
上記のように、ふるさと納税の限度額は非常に複雑な計算を要します。ご自身で正確に計算するのは困難な場合も多いため、以下の方法を活用することをおすすめします。
- ふるさと納税サイトのシミュレーター: 多くのふるさと納税サイト(さとふる、ふるさとチョイス、楽天ふるさと納税など)には、簡単な情報を入力するだけで控除上限額を計算してくれるシミュレーターが用意されています。これらのシミュレーターは、基本的な要素を考慮して計算してくれるため、手軽に目安を知ることができます。ただし、詳細な控除まで考慮されていない場合もあるので、あくまで「目安」として利用し、不安な場合は税理士や税務署に相談することが重要です。
- 源泉徴収票や住民税決定通知書の活用: 過去の源泉徴収票や住民税決定通知書があれば、ご自身の所得や各種控除額、住民税所得割額などを確認することができます。これらを参考に、より正確な情報をシミュレーターに入力することで、精度を高めることができます。
- 税理士や税務署への相談: 最も確実な方法は、税理士や管轄の税務署に相談することです。特に、所得が複雑な場合や、住宅ローン控除など複数の控除を受けている場合は、専門家のアドバイスを受けるのが賢明です。
8. 寄付金額と控除限度額の関係性
ふるさと納税では、「寄付金」と「控除限度額」の関係性を正しく理解することが重要です。
- 寄付金が控除限度額以内: 寄付金額が自身の控除限度額の範囲内であれば、自己負担額2,000円を除いて、寄付した金額の全額が所得税と住民税から控除されます。最もお得にふるさと納税を利用できる状態です。
- 寄付金が控除限度額を超える: 寄付金額が控除限度額を超えてしまうと、その超過分は税金からの控除対象外となり、純粋な寄付となります。つまり、自己負担額が2,000円ではなく、2,000円+超過分となるため、経済的なメリットは失われてしまいます。
例えば、控除限度額が5万円の人が10万円寄付した場合、5万円分は控除されますが、残りの5万円は控除されず、結果として2,000円+5万円=5万2,000円の自己負担が発生することになります。
9. 確定申告とワンストップ特例制度
ふるさと納税による寄付金控除を受けるためには、原則として確定申告を行う必要があります。しかし、会社員など確定申告が不要な人で、年間5自治体までの寄付であれば「ワンストップ特例制度」を利用することができます。
確定申告の場合:
- 寄付金控除の申請を行うことで、所得税と住民税の両方から控除が行われます。
- 所得税からの控除は、確定申告後、納税額から直接還付されるか、徴収される税金から差し引かれます。
- 住民税からの控除は、翌年度の住民税額から差し引かれます。
ワンストップ特例制度の場合:
- 寄付先の自治体に「寄付金税額控除に係る申告特例申請書」を提出することで、確定申告なしで控除が受けられます。
- 控除は全額住民税から行われます。所得税からの控除分も、住民税の特例控除額に含まれる形で控除されます。
- 申請書は、寄付をした年の翌年の1月10日までに自治体に必着させる必要があります。
どちらの制度を利用する場合でも、控除される金額の総額は変わりませんが、計算のタイミングや手続きが異なります。ご自身の状況に合わせて最適な方法を選択しましょう。
10. まとめ
ふるさと納税は、税金が控除されながら地域の活性化に貢献できる魅力的な制度ですが、その恩恵を最大限に受けるためには、ご自身の「控除上限額(限度額)」を正確に把握することが不可欠です。
限度額は、所得や家族構成、各種控除の状況によって一人ひとり異なります。簡易計算式でおおよその目安を知ることはできますが、より正確な金額を知るためには、源泉徴収票や住民税決定通知書を手元に準備し、ふるさと納税サイトのシミュレーターを活用したり、必要であれば税理士や税務署に相談したりすることをおすすめします。
この記事で解説した計算方法や注意点を参考に、ご自身に合った適切な寄付額を見つけ、賢くふるさと納税を活用してください。

ふるさと納税の控除上限額(限度額)をシミュレーションできる主要なウェブサイトを5つご紹介
ふるさと納税の控除上限額(限度額)をシミュレーションできる主要なウェブサイトを5つご紹介します。これらのサイトは、簡単な情報入力で目安額を算出してくれる便利なツールを提供しています。
- さとふる
- 特徴: 簡単な質問に答えるだけで控除上限額の目安がわかる「簡単シミュレーション」と、源泉徴収票の情報を入力することでより詳細な計算ができる「詳細シミュレーション」があります。非常に多くの自治体や返礼品を取り扱っており、使いやすいインターフェンスが特徴です。
- URL: https://www.satofull.jp/static/calculation01.php
- ふるさとチョイス
- 特徴: ふるさと納税サイトの草分け的存在で、掲載自治体数・返礼品数が非常に多いです。年収と家族構成を入力する「かんたんシミュレーション」と、詳細な情報を入力する「詳細シミュレーション」の両方を提供しています。
- URL: https://www.furusato-tax.jp/about/simulation
- ふるなび
- 特徴: 家電や商品券など、人気の返礼品が多く掲載されています。簡単なシミュレーションの他に、詳細な情報を入力できるシミュレーションツールも提供しており、より正確な目安を知りたい方におすすめです。
- URL: https://furunavi.jp/deduction.aspx
- 楽天ふるさと納税
- 特徴: 楽天市場のユーザーにとっては、楽天ポイントを貯めながらふるさと納税ができる点が大きなメリットです。年収と家族構成から計算できる「かんたんシミュレーター」と、より詳細な情報で算出する「詳細版シミュレーター」があります。
- URL(かんたんシミュレーター): https://furusato-nouzei.event.rakuten.co.jp/mypage/deductions/
- URL(詳細版シミュレーター): https://furusato-nouzei.event.rakuten.co.jp/mypage/deduction-details/
- au PAY ふるさと納税
- 特徴: auユーザーに嬉しい、Pontaポイントが貯まる・使えるふるさと納税サイトです。詳しい控除額計算シミュレーションも提供しており、年収、家族構成だけでなく、各種控除額なども入力できます。
- URL: https://furusato.wowma.jp/guide/simulator_details.php
これらのシミュレーターは、あくまで目安の金額を算出するものであり、最終的な控除上限額は確定申告や住民税決定通知書などで確認することをおすすめします。特に、年収が変動する可能性がある方や、住宅ローン控除、医療費控除など複数の控除を受けている方は、より詳細なシミュレーションを利用したり、税務署や税理士に相談したりすると良いでしょう