「あれ?医療費控除って確定申告でできるんだっけ?」「いくら医療費がかかったら対象になるの?」「手続きって難しそう…」
年間で一定額以上の医療費を支払った場合、確定申告を行うことで所得税が還付される可能性がある「医療費控除」。しかし、制度の内容は複雑に感じられ、自分は対象になるのか、どのように手続きを進めれば良いのか迷ってしまう方も少なくないのではないでしょうか。
そこで本記事では、確定申告における医療費控除について、制度の概要から対象となる医療費、控除額の計算方法、そして具体的な申告手順までを、4000文字を超えるボリュームで徹底的に解説します。この記事を読めば、医療費控除の仕組みを理解し、スムーズに確定申告を行うことができるようになるはずです。ぜひ最後までお読みください。

確定申告の医療費控除とは?
1.医療費控除とは?制度の概要を分かりやすく解説
医療費控除とは、1年間に支払った医療費の合計額が一定額を超える場合に、その超えた金額を所得から控除できる制度です。所得税は、年間の所得金額に応じて課税されるため、所得控除が増えることで課税対象となる所得金額が減少し、結果的に所得税額が軽減されます。
この制度の目的は、納税者とその生計を同一にする配偶者や親族のために支払った高額な医療費の負担を軽減することにあります。病気や怪我は予期せぬ出費を伴うことが多く、家計への影響も大きくなりがちです。医療費控除は、そのような経済的な負担を和らげるための国のサポート制度と言えるでしょう。
控除を受けるための基本的な条件
医療費控除を受けるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
- 年間医療費の合計額が一定額を超えること: この一定額は、その年の総所得金額等によって変動します。具体的には、以下のいずれか低い金額となります。
- 10万円
- その年の総所得金額等の5%
- 確定申告を行うこと: 医療費控除は、年末調整では適用されません。必ずご自身で確定申告の手続きを行う必要があります。
例えば、年間の総所得金額が200万円の方の場合、医療費の合計額が200万円 × 5% = 10万円を超えた部分が控除の対象となります。一方、年間所得が1000万円以上の方でも、医療費の合計額が10万円を超えれば控除の対象となります。
2.何が対象になる?医療費控除の対象となる医療費の詳細
医療費控除の対象となる医療費は、非常に多岐にわたります。ここでは、主な対象となる費用と、間違えやすい点について詳しく解説します。
主な対象となる医療費
- 医師や歯科医師による診療費・治療費: 病院やクリニックでの診察料、治療費はもちろん、歯科治療費や入院費用も含まれます。
- 薬局で購入した医薬品の費用: 医師の処方箋に基づいて購入した医療用医薬品だけでなく、市販の風邪薬や鎮痛剤など、治療や病状の改善を目的とした医薬品の購入費用も対象となります。ただし、ビタミン剤や健康増進を目的としたサプリメントなどは対象外です。
- 入院費用と療養費: 入院時の食事代、室料(一定の基準内)、医療を受けるための交通費なども対象となる場合があります。ただし、自己都合による差額ベッド代や、タクシー代は原則として認められません。公共交通機関の利用が困難な場合に限り、タクシー代が認められることがあります。
- あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術費: 治療を目的とした施術であれば、これらの費用も医療費控除の対象となります。ただし、単なる疲労回復やリラクゼーションを目的とした施術は対象外です。
- 助産師による分娩費用: 出産にかかる費用も医療費控除の対象となります。
- 介護保険サービス費の一部: 在宅サービスや施設サービスなど、介護保険法に基づく一定のサービス利用料も医療費控除の対象となる場合があります。
- 医療器具の購入費・レンタル料: 治療に必要な医療用器具(松葉杖、義手、義足、補聴器など)の購入費用やレンタル料も対象となります。
- 人間ドックや健康診断の費用(一定の条件あり): 原則として、予防を目的とした健康診断や人間ドックの費用は対象外ですが、検査の結果、重大な病気が発見され、引き続き治療を行った場合は、その健康診断や人間ドックの費用も医療費控除の対象となることがあります。
- 歯の矯正費用(一定の条件あり): 成人の歯列矯正は原則として審美目的とみなされ対象外となることが多いですが、子どもの成長期の歯列矯正で、発育を阻害するなどの治療目的の場合は対象となることがあります。
- 不妊治療費: 人工授精や体外受精などの不妊治療にかかる費用も医療費控除の対象となります。
間違えやすい点・注意点
- 予防接種費用: インフルエンザワクチンなどの予防接種費用は、疾病の治療を目的としたものではないため、原則として医療費控除の対象外です。
- 健康診断費用(治療に繋がらなかった場合): 健康診断や人間ドックで異常が見つからず、治療に繋がらなかった場合は、原則として医療費控除の対象外です。
- 美容整形費用: シミ取りや二重まぶたの手術など、美容を目的とした医療費は対象外です。
- 入院時の身の回り品: テレビカード代や洗面用具など、入院中に個人的に使用する物品の購入費用は対象外です。
- 生命保険や医療保険の給付金: 支払った医療費から、生命保険や医療保険から受け取った給付金(入院給付金、手術給付金など)を差し引いた金額が、医療費控除の対象となる医療費となります。また、高額療養費制度による払い戻し金も同様に差し引く必要があります。
生計を一にする親族の医療費も対象
医療費控除は、納税者本人の医療費だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も合算して控除の対象とすることができます。例えば、別居している両親の医療費を納税者が負担している場合でも、生活費を送金しているなど「生計を一にしている」と認められれば、その医療費も控除の対象となります。

3.いくら戻ってくる?医療費控除額の計算方法をステップごとに解説
医療費控除額は、支払った医療費の合計額から一定の金額を差し引いて計算されます。具体的には、以下のステップで計算します。
ステップ1:年間の医療費の合計額を計算する
まず、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費の合計額を計算します。病院、薬局、歯科医院など、医療機関ごとに領収書を集計し、家族全員分の医療費を合算します。
ステップ2:生命保険や医療保険の給付金などを差し引く
ステップ1で計算した医療費の合計額から、生命保険や医療保険から受け取った給付金、高額療養費制度による払い戻し金などを差し引きます。この差し引いた後の金額が、医療費控除の対象となる医療費となります。
(医療費の合計額)-(生命保険などの給付金)=(医療費控除の対象となる医療費)
ステップ3:医療費控除額を計算する
以下の計算式で医療費控除額を計算します。
(医療費控除の対象となる医療費)-(10万円または総所得金額等の5%のいずれか低い金額)=(医療費控除額)
上記の計算式で算出された金額が、所得控除額となります。この控除額に、ご自身の所得税率を掛けることで、還付される所得税額を概算で計算することができます。
還付される所得税額の目安
還付される所得税額は、以下の計算式で求められます。
(医療費控除額)×(所得税率)=(還付される所得税額の目安)
所得税率は、所得金額によって異なります。国税庁のホームページなどで確認することができます。
計算例
例えば、年間の医療費の合計額が50万円、生命保険の給付金が10万円、総所得金額が400万円の場合の医療費控除額と還付される所得税額を計算してみましょう。
- 医療費控除の対象となる医療費: 50万円(医療費合計)- 10万円(給付金)= 40万円
- 控除額を計算するための基準額: 10万円(または 400万円 × 5% = 20万円)。このうち低い金額である10万円が基準額となります。
- 医療費控除額: 40万円(対象となる医療費)- 10万円(基準額)= 30万円
この30万円が所得控除額となります。仮に所得税率が20%の場合、還付される所得税額の目安は、30万円 × 20% = 6万円となります。
4.どうやって申告する?確定申告の手順と必要書類
医療費控除を受けるためには、確定申告を行う必要があります。ここでは、その手順と必要な書類について詳しく解説します。
確定申告の期間
通常、確定申告の期間は、翌年の2月16日から3月15日までです。ただし、年によって期間が変更される場合があるため、国税庁のホームページなどで最新情報を確認するようにしましょう。
確定申告の方法
確定申告には、主に以下の2つの方法があります。
- 税務署への書面提出: 確定申告書を作成し、必要書類を添付して所轄の税務署に郵送または持参する方法です。
- e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用したオンライン申告: マイナンバーカードまたは税務署で発行されるID・パスワードを利用して、インターネットを通じて申告する方法です。e-Taxを利用すると、自宅やオフィスから手軽に申告でき、一部の添付書類の提出が省略できるなどのメリットがあります。
確定申告に必要な書類
医療費控除の申告には、以下の書類が必要となります。
- 確定申告書AまたはB: 所得の種類によって使用する用紙が異なります。給与所得や年金所得のみの場合は確定申告書A、事業所得などがある場合は確定申告書Bを使用します。
- 医療費控除に関する明細書: 医療を受けた人、病院・薬局などの支払先、医療費の金額などを記載する専用の明細書です。この明細書には、医療費の領収書に基づいて記入します。
- 医療費の領収書: 支払った医療費の領収書(原本)が必要です。紛失しないように大切に保管しておきましょう。e-Taxで申告する場合は、領収書の提出は不要ですが、5年間保管する義務があります。
- 生命保険などの給付金を受け取った場合は、その金額がわかる書類: 保険会社から送付される支払明細書などを添付します。
- 源泉徴収票(給与所得者の場合): 勤務先から交付される源泉徴収票を添付します。
- マイナンバーカードまたはマイナンバーが確認できる書類と本人確認書類: 確定申告書にマイナンバーを記載する必要があります。
医療費控除に関する明細書の作成ポイント
医療費控除に関する明細書は、医療を受けた人ごと、病院・薬局などの支払先ごとに記載する必要があります。領収書を見ながら、正確に転記するようにしましょう。近年では、医療費通知(医療費のお知らせ)を活用することで、明細書の記入を簡略化できる場合があります。医療費通知は、健康保険組合などから送付されるもので、1年間の医療費の明細が記載されています。ただし、医療費通知に記載されていない医療費がある場合は、別途領収書に基づいて記入する必要があります。
確定申告書の作成と提出
確定申告書は、国税庁のホームページで作成できます。画面の案内に従って入力していけば、自動的に計算が行われるため、手書きに比べてミスが少なく、簡単に作成できます。作成した申告書は、印刷して税務署に提出するか、e-Taxで送信します。
還付金の受け取り
確定申告の結果、還付金が発生する場合は、申告書に記載した金融機関の口座に振り込まれます。e-Taxで申告した場合の方が、書面提出よりも還付までの期間が短い傾向があります。

5.まとめ:医療費控除を賢く活用して税負担を軽減しよう
今回は、確定申告における医療費控除について、制度の概要から対象となる費用、計算方法、そして申告手順までを詳しく解説しました。医療費控除は、年間で一定額以上の医療費を支払った場合に、所得税の負担を軽減できる重要な制度です。
今回の記事を参考に、ご自身が医療費控除の対象となるかどうかを確認し、必要な書類を準備して、確定申告に挑戦してみてください。もし手続きに不安がある場合は、税務署の相談窓口や税理士に相談することも有効な手段です。
医療費控除を賢く活用することで、医療費の負担を軽減し、より安心して生活を送ることができるはずです。